2015 / Sommer
入国審査の長蛇の列にゆっくり仕事をするコントローラ、子どものみならず大人たちも大声で話し大騒ぎする電車の中、ドイツに帰ったことを自覚させられる。1ヶ月半の母国日本での生活を終えて、昨日ブレーメンの自宅に帰ってきた。留学以来ドイツで感じてきた様々な疑問がよみがえると同時に、まだ夏の記憶がほんのり残りつつも、秋の気配は十分に感じられる空気感に深呼吸をしたくなる。
今年の夏もまたとても良い経験をさせて頂いた。特記すべきことはやはりバッハ・コレギウム・ジャパンの「ロ短調ミサ曲」。今回は2公演あり、ひとつはサントリーホールにて、NHKの収録も入った大きな舞台。もうひとつはBCJとしても初めての訪問となった広島にて。今年は終戦70年という節目の年でもあり、このバッハの晩年の大作「ロ短調ミサ曲」をこの地で演奏するというのは、音楽監督の鈴木雅明氏の強い希望でもあったらしい。このミサ曲はとても大切なテーマ「平和への祈り」が強く感じられる作品で、将来の平和への不安が募る今日、この作品を演奏するという事にはとても意味のあることだったと思う。両公演とも、終演後に頂く拍手がとても温かく、曲の本質や演奏者の想いがお客様にしっかり伝わったと自覚できる瞬間だった。また演奏者にとっても、並ならない体力と集中力を要するこの曲をバッハ・コレギウム・ジャパンの一員として演奏させて頂けた事は、一生の財産になるだろう。
そしてもうひとつの本番もバッハ作曲の「ヨハネ受難曲」。「ロ短調ミサ曲」に続き、私にとって初めて演奏する曲だった。正直に言うとこちらの本番は個人的に少し悔いの残る結果になった。仕事場で要求される様々な事、例えば薄氷のごとくデリケートなピアニッシモや低音から高音まで自在に楽器を操るフレキシブルさなど、何というか経験の差を見せつけられたようだった。しかしこの苦い経験は確実に私をステップアップさせてくれ、すでに作るリードのスタイルを少し変えたところ、前よりも自在になった。こんな経験をさせて頂いた事も、今となっては本当に幸せに思う。
それにしても日本の夏は暑苦しく、ヨーロッパで発展した楽器にとってこの湿気は天敵である。しかし日本人として日本で西洋音楽に携わっていく以上、この気候と仲良く共存するための工夫を考えなければいけないと自覚した2015年の夏だった。
…とここまででブログを締めくくるつもりだったが、今日からドイツでの仕事の為にRehda-Wiedenbrückという小さな田舎町に来ている。(なんとここでもロ短調ミサ曲!)小さい町ならではの温かさ(例えば住人が町を歩けばみんな知っていて挨拶が飛び交う)があり、とてもみんな親切でとても豊かな気持ちになれている。ここの所、やらなくてはいけない事が山積みで余裕が無かったが、素敵な町の、素晴らしいカトリック教会での演奏に心がほぐれていく。とても幸せだ! (カメラを持ってくるのを忘れたのを後悔しているが、街並みもとても美しい。)
Lesson
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